悪意は、読んでいるあいだずっと、狭い部屋の中でじわじわと空気が濁っていくような小説でした。誰が殺したかは早い段階で分かっているのに、ページをめくるほど心が重くなっていく感覚がありました。
犯人の手記と加賀の記録が交互に出てくる構成はおもしろいはずなのに、次第に「どちらの言葉も全面的には信じられない」という不安が強くなっていきます。どんどん上書きされていく「真相」が、不気味なゲームみたいでぞっとしました。
いちばん怖かったのは、悪意が特別な怪物ではなく、ほんの小さな劣等感や妬みの積み重ねとして描かれていたことです。自分にも覚えのある感情の延長線上に、あの事件があるのだと思わされて、読みながら何度か目をそらしたくなりました。
本作は、冒頭で犯人が判明するという異例の展開から始まりながら、その後に浮かび上がる“偽りの動機”と“真の悪意”に読者を深く引きずり込む構成が衝撃的でした。 
特に、「なぜ人は理不尽に他人を憎み、傷つけるのか」という、人間の底にある負の感情の残酷さが、静かに、しかし容赦なく抉り出され、読了時には心に重く痛みが残りました。 
また、“証言”“手記”“捜査”という多層的な語り口で、真実と虚構の境界を揺さぶり続ける手法も見事で、単なる謎解きを超えた心理ミステリーとして非常に読み応えがありました。




















