佐世保の和菓子屋の若女将が、夫に「好きな人ができた」と告げて家を出ていったところから物語は始まります。数日後、彼女の車だけが小倉のホームセンターの駐車場で見つかりますが、本人の行方はわからないまま十数年が経ちます。
この作品は、夫、不倫相手、夫の後妻、成長した娘、不倫相手の妻など、様々な人物の視点から「彼女の不在」を描いています。生きているのか死んでいるのかわからない状況は、残された人々にとって大きな苦しみです。はっきりとした別れができない辛さ、死んでいるだろうと思いながらも、もしかしたら生きているかもしれないからこその踏ん切りのつかなさ。
誰もが、そこにいないはずの彼女の存在を不思議なほど強く感じています。その不穏で薄気味悪い空気感が全編にわたって続き、読んでいるこちらもゾワゾワさせられました。
彼女の失踪は、関わった人々の人生に大きな影を落としていました。不在が生み出す、複雑な感情と人間関係が深く心に残る一冊です。