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『白夜行』は、単なるミステリーではない。19年にわたる桐原亮司と唐沢雪穂の人生を描いたこの物語は、読者の価値観や感情を根底から揺さぶる力を持っている。
物語は、亮司の父親が殺害される事件から始まる。容疑者として浮かぶのは、雪穂の母。事件は迷宮入りとなり、亮司と雪穂はそれぞれ別の道を歩む。彼らの人生は表面上交わることなく、裏で密接に繋がっている。亮司は影として、雪穂は光として生きる。だがその「光」は、彼の犠牲の上に成り立っている。
この作品の最大の特徴は、主人公たちの心情が一切描かれないことだ。読者は常に第三者の視点から彼らを見つめるしかなく、だからこそ彼らの行動の裏にある感情を想像するしかない。雪穂は亮司を利用しているのか、それとも彼を愛しているのか。亮司は雪穂のために罪を重ねるが、それは償いなのか、愛なのか。明確な答えはない。ただ、彼らの共生関係の歪さと切なさが、胸に深く突き刺さる。『白夜行』は、犯罪と愛、犠牲と希望、そして人間の闇を描いた傑作である。私は「もし彼らが違う環境で出会っていたら」と何度も考えた。だが、彼らの運命は最初から決まっていたのかもしれない。















