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風の歌を聴けは、物語そのものよりも、「空気」や「気分」を読む小説だった。明確な事件が起こるわけではなく、主人公の〈僕〉が友人の鼠と酒を飲み、音楽を聴き、街を漂うように過ごす時間が淡々と描かれていく。しかし、その何気ない会話や風景の中に、1970年代の都市的な孤独や、どこにも定着できない若者の感覚が滲んでいる。
特に印象的だったのは、「野球」が背景として自然に存在している点である。村上春樹の初期作品特有の、ジャズ、ビール、翻訳文学、アメリカ西海岸的な感覚と、野球というモチーフが静かにつながっている。
また、この小説には強い感情表現が少ない。けれど、その分だけ「語られない孤独」が際立っている。〈僕〉も鼠も、自分の痛みをうまく言葉にできず、軽口や引用のような会話で距離を保っている。その不器用さが妙にリアルで、読後には夏の終わりのような寂しさが残った。



















