一気に読み終わり、ふぅ……と幸せで感嘆の吐息が出た。これはただの恋愛小説じゃなくて、人がどうやって人を幸せにするかを丹念に描いた心が温まる小説だと思う。ただのライトノベルと侮ることなかれ。映画だけ見た人はぜひ本も読んで。
時代は明治か大正でしょうか。和風レトロなシンデレラ・ストーリーです。
旧家の生まれですが母を早く亡くし、父の再婚ですっかり自分の場所をなくした主人公、美世。
義理の母と異母妹にしいたげられ、幼いころから使用人以下の扱いを受けてきました。おかげで美世は自分の意志が持てません。
家族の言うがままに、美世は冷酷な少佐との政略結婚を強いられます。
この少佐は、今まで家に来た婚約者を、端から追い出してきた過去があります。けれど美世には選べません。婚約者の家に引っ越します。
自分の無能さがばれたら追い出される。でもそれまでは、家があるだけまし。嫌われないようにしなければーー。
美世は献身的に食事を用意します。しかし少佐に言い切られてしまいました。
「こんな、何が入っているかわからないものは食えん」
美世は高圧的な婚約者との生活におびえるばかりです。
しかし少佐は、この「名家らしくない娘」が不思議に思え……と、恋愛小説だと決めつけて読んでいたのですが、ところどころに見慣れない言葉が出てきました。
「異能」「見鬼」「対異特務小隊」……?
この話の時代はいつ、どこの話なのか……日本だよね?
読んでいくうちに美世の家柄や政略結婚の意味が明らかになり、そこに異母妹の悪だくみも絡まっており、話は大きくなっていきます
びくびく主人公と、威圧感あふれる軍人のラブ・ストーリーは、どこまでも不器用で、読んでいてヤキモキしてしまいました。
純愛ですが、ハーレクイン好きの人にも読んでいただきたいくらいの好設定。
最後に一言。
この主人公、ただものじゃないですよ。
お楽しみに。