ミステリーの名作として名前を挙げられることも多い『火刑法廷』。
タイトルに法廷とあり、また章題も「起訴」「証拠」「弁論」「説示」「評決」という具合で、
法廷もののように思われるかもしれませんが、そうではありません。
1929年の春、編集者のスティーヴンズは、妻の待つ別荘に向かう列車の中で流行作家ゴーダン・クロスの新作の原稿を手にしていました。
クロスの作品は現実に起きた殺人事件の歴史を再現したもので、今回の新作の主題は17世紀フランスに暗躍した女性毒殺者。
そこに添付されていた過去の毒殺者の写真が、なんと妻と瓜二つだったのです。
この最初の22ページの時点で、すっかり物語に引き込まれてしまいました。
スティーヴンズが思い悩みつつ別荘に到着すると、今度は友人のマークが到来します。
マークは先日病によって急死した伯父は毒殺されたのではないかと疑っていて、
スティーヴンズに遺体の発掘を手伝ってくれるように頼みにきたのです。
マークが集めた仲間と共に棺を開けてみると、なんと遺体が消え失せていました。
そして殺される直前の伯父の寝室で目撃されていた、古風な衣装の女。
その女は、通じているはずのない扉から消えていったという証言まで出てきて…。
というわけで、人間消失や毒殺魔伝説など、非常に興味をそそられる話が次から次へと展開していきます。
一つ一つの謎を検討しながら徐々に確信に近付いていく、
それだけでも十分に面白いのですが、この作品の魅力はラストシーンにあります。
このラストだったからこそ、1937年に発表されてから今に至るまで語り継がれてきたのだろうと納得できる内容です。
ネタバレになるのでこれ以上は控えますが、あらすじの段階で興味をそそられた方はぜひ最後まで読んでみることをおすすめします!