喜多川泰の『ソバニイルヨ』は、中学生の隼人と、彼のもとに突然現れたAIロボット・ユージーとの交流を描いたハートフルな長編小説です。ユージーの目的はただひとつ——「アイ(愛)」を伝えること。この「アイ」という言葉が、物語の核となり、読者にも深い問いを投げかけてきます。
隼人は、友人との関係に悩み、親との距離に戸惑いながら、日々をなんとなく過ごしていました。そんな彼のもとに現れたユージーは、答えを教えるのではなく、「考える時間」を与えてくれます。ユージーの存在は、隼人にとって“そばにいてくれるだけで安心できる存在”となり、彼の心に少しずつ変化をもたらします。
印象的なのは、ユージーが語る「勉強しないで困るのは、自分じゃなくて、将来自分の周りにいる、自分の大切な人たち」という言葉です。この一言は、学ぶことの意味を「自分のため」だけでなく「誰かのため」に広げてくれる視点を与えてくれます。
また、隼人が孤立や不安を乗り越えていく過程は、思春期の読者だけでなく、大人にも響く普遍的なテーマです。親の期待、友人との距離、自分の価値——それらに悩むすべての人に、「そばにいること」の力を教えてくれる作品です。
読後には、「誰かのそばにいること」「誰かがそばにいてくれること」の大切さを、静かに噛みしめたくなります。この物語は、誰かにプレゼントしたくなるような、優しさと気づきに満ちた一冊です。














