ラッピングされているかのような表紙が可愛くて、思わず手に取りました。
裏表紙のあらすじを見てみると「致死性脳劣化症候群」という文字が目に飛び込んできます。
その症状は、考えを巡らせるほど脳が衰え最終的には死を迎えることになる、というもの。
一体どんな物語が待ち受けているんだろうと、期待に胸を膨らませながらページをめくりました。
物語は主人公の奥さんが病名を宣告されるシーンから始まります。
いろいろな考えが頭をよぎり、ヒステリックになってしまう奥さん。
主人公はこんな珍しい病気になってしまった原因に思い当たり、その元凶を作ってしまった自分を後悔します。
そして、彼(主人公)と彼女(奥さん)の出会いまで時は遡ります。
彼女は職場の同僚の1人。
会社ではあまり目立たない女性でしたが、話していると日常では使わないような「エンゲル係数」などの言葉が彼女の口からポンポン出てきます。
その言葉のチョイスや、時々見せる男らしい言動に惹かれていく主人公。
読んでいると、彼女の自然なギャップが微笑ましくて、終始笑みがこぼれました。
ある日、彼は会社に寝泊まりしていた彼女に出くわします。
夜中まで仕事をして頭が回っていないせいか普段とは違い砕けた口調の彼女に、
彼が思わずいった言葉はーー「猫、剥げかけ」
その言葉に彼女は心をくすぐられたようで、次第に彼女も彼を気にするように……
考えのすれ違いもありますが、本が好きな人にしかわからないお互いの感性が関係をつなぎ止め、さらに2人の距離を近づけていきます。
まるで2人だけを切り取ったような世界観に、どんどん引き込まれていました。
そして彼らは結婚して、彼女は小説家になります。
小説家になることで起こる家族の変貌や、言われなき誹謗中傷に悩み苦しむ彼女。
有名になると周りの状況が一変すると言いますが、いいことだけじゃなく悪いことも同時にやってくることが身に染みてわかる作品でした。
それからも物語は続いていき、もうひとつの視点からも描かれることになるのですが、
そこでは今までの物語が別の形で見えてきます。
いい意味で期待が裏切られる作品ですので、ぜひ一度ご覧ください。