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h.t
『騎士団長殺し』は、山中のアトリエという閉じた空間に自分もこもり込んでしまうような、妙に静かな読書体験でした。『1Q84』以来の大長編と言われるだけあって、ページをめくるというより、長いトンネルを少しずつ歩いていく感覚があります。
地下から響いてくる鈴の音や、「イデア」として現れる騎士団長、穴の底の暗闇など、現実とも夢ともつかないモチーフが次々に現れて、読んでいるうちに「自分の中のどこか」を覗き込まされているような気分になりました。肖像画家という設定も、他人の顔を描きながら自分の空洞を見つめ直す装置として、とてもよく機能していると感じました。
正直、冗長に感じる場面もありましたが、その「寄り道」や「間」の多さこそが、喪失や罪悪感と向き合うときの、人間の思考のぐるぐるした歩みそのものにも思えてきます。
