「創られた日本の心神話、演歌をめぐる戦後大衆音楽史」の読書感想文をご紹介します。
本書は、戦後日本の大衆音楽史における「演歌」の変遷を辿りながら、「演歌=日本の心」というイメージがいかにして形成されたのかを解き明かしています。
本書は、演歌の起源を明治時代の「演説歌」に求め、それが戦後、大衆音楽として復活し、高度経済成長期を経て「日本の心」の象徴として確立されていく過程を詳細に分析しています。
興味深いのは、演歌が単なる音楽ジャンルではなく、政治、経済、文化、メディアなど、様々な要素と複雑に絡み合いながら、そのイメージを形成してきた点です。
著者は、膨大な資料と緻密な考察に基づきながら、演歌のイメージを操作しようとする人々の意図や、メディアの役割を浮き彫りにしています。
演歌が「懐かしさ」「哀愁」「故郷」といったイメージと結び付けられることで、国民のアイデンティティ形成に貢献してきた一方で、そのイメージが固定化されることで、多様な音楽の可能性を狭めてきた側面も指摘しています。
本書は、演歌という切り口から、戦後日本の社会と文化を読み解く視点を提供しています。
音楽好きはもちろん、歴史や社会学に興味を持つ人にもおすすめの一冊だと思います。