長編だけで300冊を超え、中短編の数もかなりの数にのぼる十津川シリーズの第3作目になります。
今回の事件は、十津川が警部補で独身、まだ海洋関係の事件を多く手掛けている時代です。
初期作なので十津川のキャラクター説明もしっかりされています。
タンカーの炎上から始まる派手な事件は、大きく3パートに分かれています。
事件発生から十津川単独での捜査が手短に書かれた後、中盤からは謎の殺人犯の視点によるパートも挟みながら、十津川たち警察陣と犯人による対決が北は長野から南は沖縄に渡って繰り広げられます。
そして、事件が落着したと考えられた終盤、十津川は事件のチグハグさ加減に疑問を抱き、有給休暇を取って亀井刑事を相棒に事件を一から振り返っていきます。
全体的に大味な物語で、突っ込もうと思えばどこまでも突っ込めるのですが、中盤の犯人との対決を描いたサスペンスの緊張感や、後半に入ってガラッと空気が変わり十津川が仮説を一つ一つ確認して可能性を潰していく過程はしっかり読ませます。
事件の大味さやスケール感に対して、あくまでも地道に推理と捜査を繰り返す十津川という対比も好きです。
そして、最後に犯人に対して直接正体を突きつけるシーンは作中の描写をしっかり使用しており納得感があります。
物語中で事件をスッキリと終わらせているわけではありませんが、物語後に大きく動きがあるであろうと匂わせる描写で終わっているのも、モヤモヤしすぎず読み終われるので良かったです。
減点法にすると点が下げられるが、加点法にすると点が上がっていく、そんな読後感です。
個人的には犯人造形や殺人方法は好みではありませんが、最終的には面白い気持ちが勝ったので、もう少し十津川シリーズを読んでいきたいという気持ちになりました。
初期作らしい豊富なアイデアを、過剰な位のエンターテイメントの要素で包んでおり、十津川の推理も納得度があるため、エンターテイメントとしての警察小説やミステリー小説が好きで細かいことを気にしすぎない人なら、楽しく読めると思います。