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本作はゲイの主人公が海の見える故郷で過ごした青春時代の日々を回想する平成編と、アラフォー世代となった現在の主人公が都会で自由な生活を送る様子を描いた令和編の2部構成となっており、1章ごとに平成編と令和編の話が同時に進むストーリーです。
高校時代、地元の友人たちと過ごした生き生きとした日々や、徐々に自身のセクシュアリティに気づき始め悩み苦しんだ青春の日々の肌理細かい描写はもちろんのこと、平成時代に存在した楽しい記憶や辛い記憶に誠実に向かうことにより令和の現在の生活に少しずつ変化が訪れ始めるストーリー展開が巧みで、それぞれの時代で主人公が味わう心理描写にとても臨場感が感じられる作品です。
主人公のキャラクターもあまりに現実離れした設定はしっかり排除されており、かなりリアリティが追求されています。そうした「実際に居そうなキャラクター設定」こそが先の臨場感の演出を可能にしている作品だと思いました。
自身のセクシュアリティに戸惑う男子高校生という爽やかで瑞々しい青春小説の要素もありながら、良く言えば安定した生活、悪く言えば退屈な日々を送る30代後半の独身男性が直面する現実も描きつつ、クライマックスへと繋がっていくストーリー展開こそが本作の醍醐味で、読後に清々しい気持ちを味わえる作品です。