上巻で提起された謎が少しずつ解き明かされ、哲学的かつ内省的な物語へと深まっていく。
土屋は、生前の自分をよく知る人物たちとの対話を通して、自分が抱えていた「空白」の正体が、自己を一つの人格に限定しようとする苦しみにあったことを悟る。
私としては、彼が様々な「分人」を持つ自分自身を受け入れられず、人間関係に疲弊し、生きる意味を見失うまでに至る心理を、苦悩する人間を理解しようと試みる時間だった。
核心は、空白を満たすという行為が、単に過去を取り戻すことではなく、新しい自己を創造することであると描かれている点にあるかと思うが、
自分を探求し、多様な自分を肯定していくプロセスを歩むさまを見るにつけ、私自身が、多様な自分のこの肯定作業をとうに終えている側なのだと実感する。
自己とは、生きるとは何かという、普遍的なテーマに改めて向き合いたい時期にいる人に読んでほしい。
とはいえ自分自身と向き合うことの案外の難しさ、他者とのつながりの大切さを噛みしめる良い機会になったし、思考と言葉のお裾分けを楽しめた。