殺人事件の話なのに、いちばん刺さったのは「もう戻らない時間」の方でした。大学移転でさびれた学生街の描写があまりにも生々しくて、読んでいて自分の過去の街まで一緒に黄ばんでいくような感覚になりました。
進路が決まらないままビリヤード場でバイトを続ける光平の、中途半端さと居心地の悪さが痛いほど分かります。彼の周りで次々と人が死んでいくのに、どこかでまだ「ここにいたい」としがみついてしまう感じが、とても人間らしくて苦しかったです。
密室トリックや連続殺人としてもきちんと楽しめるのですが、その背後にある、人間関係のねじれや、言えなかった本音の積み重ねがじわじわ効いてきます。犯人が誰か、という答えより、そこに至るまでに壊れてしまったものの方が重く残りました。
特に印象的だったのは、ただの謎解きではなく、登場人物それぞれの過去や秘密、裏側にある人間関係の泥臭さが浮かび上がる点で若者の迷いや孤独、社会に対する漠然とした不安が底にある「青春の暗部」を描いた作品だと思います。 
結末では、意外な真相とともに「信じたはずの人を信じられなくなる怖さ」「過去の影がいかに人を蝕むか」が鮮烈に示され、読後には救いのなさとともに、人間関係や生き方について深く考えさせられました。












