都会の真ん中にひっそりと存在する、不思議な森。そこは、さまざまな悩みを抱え、行き場を失った人々が迷い込む場所でした。豊かな自然と、テノールの歌声を持つ青年の優しく迎え入れられることで少しずつささくれた心が癒やされていきます。
不登校の息子を持つ亜希子、自意識が高く就職できない麻衣、不治の病に侵された丹、森の近くの高校の生徒で不登校の長部、リストラされた鳥居、前の職場の同僚を恨み続ける奈々、あることから喋らなくなった高校生。
特に印象的だったのは、登場人物たちの描写のリアリティです。麻衣や奈々の、目を背けたくなるような「嫌な部分」や痛々しさは、あまりにリアルでヒリヒリしました。けれど、それほどまでに人間臭く描かれているからこそ、物語に深みが増しているのだと思います。
中でも、丹のエピソードはとにかく切なく、胸が締め付けられました。
だからこそ奈々へのメアリの言葉が、憎しみや後悔から抜け出せずにいるすべての人の心に、静かに、けれど強く響くはずです。
誰しもが心の中に「隠れ家」を必要としている現代。
一歩踏み出そうとする人々の背中を、そっと押してくれるような温かい一冊でした。












