ありがとう
0
宮下奈都の真骨頂と言える素敵な小説だ。平らな地面をゆっくり歩いていたのに、気がついたらさわやかな景色の見える山の頂上にいた。そして、その道のりもまだまだ素敵な景色が続きそうな・・・。ひとりの女性の心の中をとても丁寧に表現していて、中学生から社会人になるまでの成長過程をせつなくも鮮やかに見事に描き切っている。読み始めたときは、何か苦しい感じがして、この小説はハズレなのかと思った。でも、それは間違いだった。主人公の成長に連れて、ストーリーは静かに、読み手を佳境へと誘ってくれた。主人公の女性が、仲良くなる男性と、高校生の頃通った映画館ですれ違っていたり、実家の骨董屋に来ていたという場面はとても良かった。