とにかく圧倒されるような読書体験でした。暴力や麻薬、臓器売買といった過酷な現実が容赦なく描かれていて、最初はその重さに息が詰まりそうになりますが、読み進めるうちに目が離せなくなります。登場人物たちはどこか壊れていて、それでも自分の信念や欲望に忠実に生きていて、その生き様がむしろ清々しく感じる瞬間もありました。血なまぐさくも神話的で、善悪を超えた物語。読み終えたあともしばらく頭から離れない、すさまじい一冊でした。
麻薬組織や臓器売買といった過激なテーマを扱いながらも、人間の心の奥深くにある「善と悪」「信じること」「生きる意味」を問いかけてくる作品だった。
物語の中心にいるのは、メキシコの麻薬カルテルに関わるバルミロ、日本の裏社会で臓器売買を行う末永、そして無戸籍の少年コシモ。彼らはそれぞれ過酷な環境に生きながらも、自分の信念や絆を持って行動している。特にコシモの視点から描かれる場面は、読者に「人はどんな状況でも希望を持てるのか?」という問いを投げかけてくる。
この作品には、アステカ神話の神「テスカトリポカ」が登場する。彼は“煙に包まれた鏡”と呼ばれ、破壊と再生を司る神だ。物語の中で、暴力や死が繰り返される一方で、登場人物たちはそれぞれの「再生」を求めているように感じた。
読んでいて苦しくなる場面も多かったが、それでも最後まで読み進めたのは、「人間とは何か」「生きるとは何か」を考えさせられたからだ。暴力の中にも友情や信頼があり、絶望の中にも希望がある。この作品は、そうした複雑な人間の姿を描いている。
『テスカトリポカ』は、ただの犯罪小説ではない。むしろ、私たちが普段見ないふりをしている社会の闇や、人間の本質を見つめ直すための鏡のような作品だった。














