過酷な競技に挑む男たちがいる。
自転車ロードレース。日本では知名度が低いマイナー競技。
元陸上選手で18歳でレーサーに転向した白石誓ことチカはチーム・オッジに所属する新人選手。
白石は自分の役割はアシストにこそあると自負している。
同期で天才肌のスプリンター・伊庭、チームを牽引するベテランエース・石尾。
それら実力ある選手を補佐し上位に食い込ませるアシストが白石の仕事。
噛ませ犬。
捨て駒。
踏み台。
が、白石は卑下しない。
一定の実力をもちながら自分の本質はエースを助けチームを支えるアシストにこそあると割り切り、誇りを持つ。
これは自転車に命を賭けた男たちの物語である。
仲間の為に身を捧げ尽くす行為を外側から偽善と嘲るのは簡単だが、選手はそれを承知の上で悲壮な覚悟を決め、葛藤や苦悩を克服し、夢を託したエースを最前線に送り出す。
エースは無名の犠牲の上に成る勝利を義務として課され、ある者はチームに貢献し献身する行為に喜びを見い出す。
それらの対比が鮮やかに浮き彫りにする持てるものと持たざるものの優劣。
個人の勝利と引き換えてまでも尽くす価値と意義を信じればこそ白石は走り続ける。
そして悲劇がおこる。
風が頬打つ疾走感あふれるリアルなレース描写、抜きつ抜かれつの競り合いは静かに熱く、チカとシンクロし手に汗握ってしまうこと請け合い。
スポーツ小説としても充実の読み応えでしたが、終盤に仕掛けられたどんでん返しの連続も憎い。
巧みなミスリードによって「彼はこういう人はなんだ」とすりこまれた先入観があざやかにひっくり返され、思いもよらぬ真相が浮かび上がってくる瞬間は感動もの。
天才と凡人、主役と脇役、勝者と敗者。
そんな短絡な二極論では語りきれない世界がある。
己が信じたもののため身を賭して走り続けるストイックかつ情熱的な姿は孤高が人の形をとったようで、終盤明らかになる「彼」の究極の決断には衝撃を受けた。
サクリファイス [sacrifice]
犠牲。供犠(くぎ)。
勝負の神は残酷で代償なくしての勝利などありえない。
才能あるものは世に出る義務がある。
望まれて世に出たものはサクリファイスの遺志を継ぐ使命を帯びる。
最後近くの数ページ、逝ってしまった人間が背負ったものの重みと託したものの尊さに胸が熱くなった。











