SF・ファンタジー作品を得意としてきた田村由美が手掛けた、新感覚のミステリー作品です。
主人公はこんもり天然パーマの大学生・久能 整(くのう ととのう)
突然、警察官が自宅へやってきて、殺人事件の容疑者にされてしまうところから物語が始まります。
取り調べを受けるなかで身に覚えがない証拠を突きつけられるも、
久能が淡々と無罪を証明していく様子が痛快です。
本作がこれまでのミステリー作品と大きく違うところは、2つあります。
1つ目は、主人公が事件現場で捜査をまったくしない点です。
久能は突きつけられる証拠や警察官たちの言葉の中からヒントを見つけて、段々と真相へ迫っていくのです。
殺人事件の現場を見ずに、事件を解決へ導いてしまう展開に驚かされました。
2つ目は、事件を解決するだけではない点です。
久能を取り調べるために警察官が何人か出てくるのですが、彼らも人間。
それぞれの悩みを抱えています。
久能は彼らの悩みまでも見通して言葉だけで固定観念を解きほぐしていきます。
物語の最後には、事件だけではなく、他の登場人物たちの悩みも解決しているのです。
また、このときのセリフがとても哲学的で、
読者自身もハッとさせられるような、物事の本質を突く考え方になっています。
ミステリーとしてだけではなく、そうした巧みなセリフ回しにも注目して読んでみてください。