一九二六年の三月、この稀代の芸術的頭脳はスペインへと旅だつ。彼プラーツのスペイン旅行は、スペイン史はもとより、さまざまな文学者たちの旅行記や文学的記述──アーヴィングやメリメ、ゴーティエやアミーチスらによって築きあげられてきた「ピクチャレスク」で「ロマン主義的」でエキゾチックなスペインのイメージ、すなわち闘牛とフラメンコ、アルハンブラ宮殿とシェリー酒に彩られた定型的で常套句的なスペイン像──をすべて頭に収め、周到に準備してなされた。到着するとただちに、彼の批評的頭脳と芸術的眼識がはたらきだすことになる。
「セゴビアの奇跡」はセゴビアを舞台とした一種のピカレスクでロマンティックな物語。「死の勝利」は、大司教の葬儀の光景と有名な説教師の言葉とブリューゲルの《死の勝利》についての微に入り細を穿った文学的なエクフラシス。「神秘主義あるいは悪魔の代弁者」は神秘主義と神秘主義者の定義をめぐる哲学的 = 神学的な対話篇。「聖母のカマリン」は、カマリンと呼ばれる小礼拝堂を舞台に、聖母の表象をめぐる文学者と聖職者と芸術作品のディスクールが織りなす華麗なオベリスク。そして「カスタネットと蝉」は、アルカラ・デ・グアダイラの松林でくりひろげられた祝祭の、文学的な香りの高い感傷的なルポルタージュ、である。
プラーツが文章で視覚化したこの文学 = 批評的万華鏡は、「血と官能と死」にまつわるスペインのさまざまな定型的で常套句的なクリシエを事もなげに綯い交ぜ、格調高い、新たな感性を覚醒させる象徴的なイメージ空間を紡ぎだし、歓喜と絶望と愛のピカレスクを演じる何気ない広場や街路や佇まいに秘められた、時空を超えた深い歴史的意味と栄枯盛衰への哀悼と芸術的精華を語りつくす!
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