静かに進む物語の中に張り詰めた緊張感が漂い、登場人物たちの「Nのため」という想いが交錯する様子に心を奪われました。過去と現在が繊細に絡み合い、少しずつ明かされていく真実に胸が締めつけられます。切なくも温かい感情が残る、深く心に刺さる作品でした。
物寂しい部屋に閉じ込められた悲しげな小鳥が印象的で、気づいたら手にとっていました。
ページをひらくと、まず『事件』という文字が目に飛び込みます。それは野口夫妻が亡くなったというもの。
ミステリーのはじまりにふさわしい展開で、早速興味が引きつけられます。
主な登場人物は、杉下希美・成瀬慎司・西崎真人・安藤望という20代の男女4名。
それぞれの事情聴取から野口夫妻や、ほか3名との関係性がみえてきます。言葉の端々から野口夫妻に抱いていた各人の思いがわかり、犯人は誰だろうと考えをめぐらせますが、明らかに犯人であろう人が1人でてきます。
こんな序盤にも関わらずこの人が犯人……??
しかし、誰の証言にも違和感を覚える点がなく、結局1人が裁かれます。
次の物語は10年後の誰かの視点ではじまります。そこに書かれた内容は、この事件で自分は大切な人を守ったというもの。さらに、ほかの人も想い人のために隠していることがあるだろうから、この事件の真実を知りたいとも書かれていました。
この事件にはまだ伏せられた真相があることがわかり、普通のミステリとは一線を引く書き方に期待を膨らませながらページをめくります。
4人の名前にふくまれる『N』
そこにはそれぞれの想いが詰まっています。そして、交錯しすれ違う…予想したこととは全く異なることを考えていたり、愛しているからこそ距離を置いたり。
この作品は、一度読んで「はいおしまい」では決してありません。
崩れそうな絶妙なバランスを保っている彼らの関係性は、真実を知った上で読み直してみると、また違う味わいを楽しむことができます。
湊かなえの『Nのために』は、連続殺人事件を軸に、登場人物たちの複雑な心理や秘密を巧みに描いたサスペンス小説です。愛情、友情、嫉妬、裏切りなど、人間の多面性が緻密に描写され、読者は次第に真相へ引き込まれます。緊張感あふれる展開と意外な結末が交錯し、誰もが抱える感情の闇や倫理の葛藤を考えさせられる、読み応えのある作品です。ラストまで目が離せない、深い余韻を残す小説です。












