ニッケルオデオンが面白かったので購入。
彗星の衝突で人類の滅亡がすぐそこまで迫った終末の世界、一喜一憂する人々の悲喜こもごもがリンクして予想外の展開になだれこむ短編。
序盤はそれぞれ関係ない独立した話と見せかけて実は……というのが巧い。小出しにされた点が次第に繋がって伏線が回収される快感。
性転換・おねショタ・おじロリ・人外・ホモ・百合・臓物愛好など、ニッケルオデオンと同じく特殊性癖の引き出しが多すぎる。
エロくない絵柄なのに萌えとエロスがそこはかとなく共存する。
ブラックでシュール、リリカルでポエット、なんとも不思議な読み心地。アルファベットからとられた各話のタイトルもおしゃれ。
作中散りばめられた「ルーブ・ゴールドバーグ装置」「ハンドスピナー」「テセウスの舟」などのキーワードもおシャンティで、並べるだけでなんだかちょっと頭がよくなった気がしてくる。
フレーメン隊の由来も知っているとちょっとクスッとできる、随所に仕込まれた小ネタが心憎い。
ちょっと匙加減を間違えると露悪なグロに偏りそうなのに、そうならないギリギリの線を突いてくる。モノローグやセリフも哲学的で深い。
個人的にはハンドスピナーと応為の話が面白かった。
ハンドスピナーはいじめがきっかけの悲劇だが、直接的な描写は一切なく、終盤たった一言で何が起きていたのか読者にガツンとわからせるのが凄い。
「一週間辛抱した結論がこれなんだ。依田くんの私への答えだ」
いじめられっ子やいじめを傍観していた人には突き刺さる言葉だと思った。
そしてこの台詞が冒頭の「気持ちはわかるけど」と呼応し、何にもわかっていなかった事実が暴かれるのが凄く痛い……。
「ヴィオニッチホテル」など、他作品のキャラクターも登場して嬉しいサプライズ。
変態一家のパパはどんどん変態性が増している……。
スーパーヒーローや人魚や超能力、なんでもありのファンタジックな世界観だが、登場人物はいずれもごく私的な悩みを抱えており、それは恋や友情や家族、小さな秘密や罪に関する事柄だったりする。
世界の終わりが近付いてもヒトは相変わらずくだらないことで笑ったり泣いたりし、うっかりだれかを好きになったり性懲りなく失恋したりする。
そんなどうしようもなく滑稽な空回りっぷり、個人の成長しなさがおかしくていとおしい。
タイムスリップや巻き戻しもアリのループな話なので、「結局なにがどうなってたの??」とこんがらがってしまうが、むずかしいことを考えずオムニバスとして読んでも楽しめる。











