『春秋の檻』は、全四巻ある立花登シリーズの一作目です。
俊才の誉れ高かった叔父に憧れた立花登は、医者となる夢を叶えるべく叔父を追いかけて江戸へ。
しかし彼を待っていたのは、時代遅れの医術で流行らない町医者をやる冴えない叔父、口煩い叔母、二人の娘で町を遊び歩いている驕慢なちえ、という一家でした。
叔父に任された仕事の一つが、牢医者というお役目。
牢医者は、牢に繋がれた囚人たちの病を見てやったり、時には牢問という拷問の立ち合いをします。
そして当然、囚人とは関わり合いを持つ機会も多いわけで……
物語は短編仕立てで、囚人の冤罪を晴らしたり、大きな事件解決への一助となったり、後悔のない最後を送らせてやったりというお話が、
サスペンスや謎解き要素を取り入れつつ語られていきます。
一介の牢医者が、なぜそこまでの活躍を? と思いますよね。
一つには、登の優しい性格が挙げられるでしょう。
相役の矢作幸伯などは囚人の声に耳を傾けていてはきりがないと割り切っているのですが、
若い登はどうしても捨て置けずに気にかけてしまうことがしばしば。
そのせいで人や世間の暗部を見てしまったり、無力感に襲われるようなこともあるのに、
それでも前を向いて歩いていく登の姿には好感が持てます。
また、登は柔術の巧みな使い手でもあります。
厄介事に巻き込まれても、多少のことは力技でなんとかできるところが活躍のポイントでもあるでしょう。
物語によっては重たい展開もあるのですが、最後にはどこか爽やかな風が吹き抜けるような気持ちになれるのは、流石、藤沢周平作品だなと思います。
だらしのない叔父一家については、最初の内は読んでいるとむかむかしていたものですが、
この先は変化があるかもしれないなと思うと、次巻以降が気になるところです。