20世紀後半の政治経済の変動と、それが個人と社会に与えた影響について非常に深い考察がなされていることを実感しました。
福祉国家が求める平等主義と、新自由主義が推進する市場原理主義の対立が、どのようにイギリス社会に影響を与えたのか、またそれが個人と社会の関係にどんな変化をもたらしたのかという点が非常に興味深いです。福祉国家の理念が崩れ、新自由主義が広がる過程を、個人主義の変遷を通じて理解できる内容となっており、経済や社会の変動を学ぶ上で有益な一冊です。
戦後のイギリスでは「衰退」が強調される一方で、福祉国家の下で「民衆的個人主義」が花開いた。民衆的アーカイヴを駆使し、戦後史の分水嶺とされる新自由主義的改革へと向かう一九七〇年代の社会が内包していた多様な可能性を、福祉や教育、ジェンダー、移民と多文化主義、宗教とモラリズム等の面から明らかにする画期的論集。
序 章 一九七〇年代の民衆的個人主義……………長谷川貴彦
はじめに
一、戦後史の再検討
二、一九七〇年代論
三、民衆的個人主義の諸相ー本書の構成
おわりに
第1章 コミュニティ・アクションの源流………………長谷川貴彦
--ノッティングヒルのジャン・オマリー、一九六八ー七五年
はじめに
一、ノッティングヒル
二、コミュニティ・アクション
三、ジャン・オマリーの思想と実践
おわりに
第2章 教育政治の変容と新自由主義………………岩下 誠
--ウィリアム・ティンデール校事件(一九七五年)を再訪する
はじめに
一、イギリス教育改革はどのように語られてきたか
二、ウィリアム・ティンデール校事件
三、背景とアクター
四、対立
おわりに
第3章 ライフヒストリーからみたウーマンリブ運動………………梅垣千尋
--オルタナティヴな女性コミュニティの希求
はじめに
一、イギリスのウーマンリブ運動
二、世代論的にみたウーマンリブ運動
三、四人の若き歴史家たちーー家庭とは別の居場所を求めて
おわりに
第4章 ゲイ解放戦線の運動経験とそのレガシー………………市橋秀夫
--「サッチャリズム」ナラティヴ再考のために
はじめに
一、最初の公然デモ
二、GLFの運動基盤ーー誰が参集したのか
三、GLFの活動の核心ーー当事者直接行動と街頭劇グループ
四、GLFの運動の「衰退」
五、「ゲイ・リベレーション」から「ゲイ・アクティヴィズム」へ
おわりにーーGLF/カウンターカルチャーとサッチャリズム
第5章 「危機の時代」の北アイルランド問題…………………尹慧 瑛
--バーミンガム・アイリッシュの経験から
はじめに
一、一九七〇年代の北アイルランドとブリテン
二、「内部の他者」としての在英アイリッシュ
三、バーミンガム・アイリッシュの経験
おわりに
第6章 「踊りの場」の人種差別……………浜井祐三子
はじめに
一、歴史的背景
二、「踊りの場」での差別 一九六八ー七六年
三、人種と民衆的個人主義ーーメッカを事例として
おわりに
終 章 「許容する社会」、モラルの再興、マーガレット・サッチャー……………小関 隆
はじめにーー「許容する社会の巻き戻し」
一、一九六〇年代との接続
二、「許容」の時代
三、一九七〇年代の反「許容」
四、サッチャリズムとモラルの再興
おわりにーーサッチャーの敗北?
あとがき
20世紀後半の政治経済の変動と、それが個人と社会に与えた影響について非常に深い考察がなされていることを実感しました。
福祉国家が求める平等主義と、新自由主義が推進する市場原理主義の対立が、どのようにイギリス社会に影響を与えたのか、またそれが個人と社会の関係にどんな変化をもたらしたのかという点が非常に興味深いです。福祉国家の理念が崩れ、新自由主義が広がる過程を、個人主義の変遷を通じて理解できる内容となっており、経済や社会の変動を学ぶ上で有益な一冊です。