『エレジーは流れない』は、三浦しをんらしい“人間の弱さと可笑しみ”を丁寧にすくい上げた作品で、静けさと熱が同居するような独特の読後感が残る小説でした。
物語の中心にあるのは、誰もが抱える「言葉にしにくい痛み」や「片隅に追いやった感情」。それを無理に劇的に描くのではなく、生活の中に滲む揺らぎとして表現する筆致が見事で、読んでいて心の奥がじんわりと温まり、同時にチクリと刺されるような感覚があります。
登場人物たちは決して完璧ではなく、むしろ不器用で、ちょっとずれていて、弱い。でもその弱さこそが愛おしく、しをん作品らしい“人間礼賛”が鮮やかに感じられました。
過去との向き合い方、誰かを思う気持ちの重さと軽さ、そこから一歩踏み出す勇気──そういったテーマが静かな旋律のように物語全体を流れています。
さびれた温泉町の土産物屋に住む高校二年生の主人公、怜には、なんと母親が二人います。普段は土産物屋を営む母と暮らし、月に一週間だけ、東京から来た食品会社の社長であるもう一人の母と、大きな別荘で過ごします。どちらが産みの母なのかも知りません。
一見、複雑な家庭環境ですが、怜はまっすぐに育っています。信頼できる幼馴染や、本能のままに生きる友人たちに囲まれて、毎日わちゃわちゃしている様子が、読んでいてとても心地よかったです。
進路に悩み、自身の出生の秘密と向き合う、まさに青春真っ只中の物語です。
友人たちが店番を手伝ってくれたお礼やお年玉に、売れ残りの温泉饅頭を渡す土産物屋の母へのツッコミが面白く、クスッと笑ってしまいました。友人である心平の作った土器も、ぜひ見てみたいです。
複雑な愛の形の中で育まれた、温かい友情と成長を描いた一冊でした。












