『その日のまえに』は、重松清らしい温かさと切なさが同居する作品です。余命を宣告された父親と家族の心のすれ違い、そして日常の何気ない時間の尊さが丁寧に描かれています。喪失の悲しみだけでなく、家族の絆や思いやりの尊さを静かに伝えてくれる物語で、読後には胸にじんわりとした余韻が残ります。日常の中にあるかけがえのない時間と愛情を深く考えさせられる一冊です。
その日」は誰にでも訪れる――そう語りかけるように、本書は静かに、しかし確かに心に染み入ってくる。
重松清『その日のまえに』は、死をテーマにしながらも、決して重苦しくはない。むしろ、残された時間をどう生きるか、どう向き合うかを、優しく、丁寧に描いている。余命を宣告された妻とその家族の物語を中心に、複数の短編が連作として展開される構成は、読者に多角的な視点を与えてくれる。
特に印象に残ったのは、「その日のまえに」をどう過ごすかという問い。悲しみや不安に飲み込まれるのではなく、日常の中にある小さな喜びや、家族とのささやかな時間を大切にする姿勢が、読者自身の生き方にも静かに問いかけてくる。
死を描いているのに、読後には不思議と温かさが残る。それは、重松清の筆致が、悲しみの中にも希望を見出そうとする誠実さに満ちているからだろう。
この本は、人生の終わりを描いているのではなく、「今をどう生きるか」を教えてくれる。大切な人との時間を、何気ない日常を、もっと丁寧に過ごしたくなる――そんな気持ちにさせてくれる一冊だった。


















