固い・暗い・重い。
とかく陰鬱なイメージの先行する太宰治が生活の安定していた時期に書いた軽妙洒脱なホームドラマ。
尊大で堅物な長兄、奉仕精神にあふれた長女、驚くほどの美青年だが病弱で皮肉屋な次男、ナルシストな次女、熊の子のように愛くるしい末っ子。
個性的な五兄弟が連作で合作しひとつの物語を織り成していく。
五人兄弟のキャラがそれぞれ立ってて面白い。こんな話も書けるんじゃん太宰治。
この作品最大の美点はなんといってもそのユーモラスな持ち味、明るい作風。
退屈しのぎに即興で物語を披露するのが趣味の兄弟たちだが、長兄の話はなにかと教訓めいて説教臭く、次女の話はロマンチックで次男の話はやたらひねくれてるといったぐあいに、語り口や筋運びにはそれぞれの個性が如実に出ている。
五兄弟の性格や好み、思想が強く反映された物語はともすれば脱線し迷走し、他の兄弟への愚痴やイヤミをも内包するのだが確執じみた陰湿さは微塵もない。
冒頭の人物紹介における、兄弟それぞれの特徴を端的かつ巧みに描写するくだりから引き込まれる。
とくに好きなのは自前のコインの勲章を一週間でもっとも手柄を立てた者に贈る祖父のエピソード。
末っ子の催眠術にわざと騙されたふりをしてやる祖母や次男と母の枕元での会話などほのぼのとした家庭の様子が伝わってくる。
惜しむらくはもっと読みたかったこと。こんなにキャラ立ってて楽しいのにたった二編なんてもったいない!一家の話だけ一冊にまとめてほしい!
太宰?なんか暗そう〜と敬遠してる人は「ろまん燈篭」でがらっとイメージ変わります。というか私自身冒頭の先入観で太宰はちょっと苦手に思ってました(「人間失格」のよさもあんまわかんなかったし)
ちなみに「愛と美について」の作中作の方がお気に入りです。
「ろまん灯篭」のほうは魔女のおばあさんにも救いがあってほしかった……。











