曳き家シリーズ最新刊。
今回は洋風の教会が舞台で、和風が続いたシリーズの中では異色作。ゴシック建築が好きな方は、聖堂や内陣の描写にわくわくするかもしれません。
今巻は春菜の宿敵パグ男に焦点があたりますが、厚かましさやいやらしさ全開で暴走します。
そういう作者が配置した憎まれ役だと思ってなまぬるくも微笑ましく見てたんですが、今回は傍若無人が過ぎるというか、パグ男を下げて春菜や仙龍を上げてる……?って勘繰りたくなるストレス描写にちょっとイラッとしました。
それでこそパグ男なんですが、最終章で「春菜ちゃんには貸しがあるしね。一肌脱ぐよ」と実はいいヤツなところを見せてくれるんじゃないかと期待してます。期待してますよ!(強調)
仙龍の春菜の恋模様は相変わらずじれったいです。
っていうか、仕事以外で会うことないって……さすがにメルアド交換はしろよ……してるのか?二人とも意地っ張りで奥手すぎるというか、傍から見れば両想いに近いのでじれじれします。
春菜の愉快な仲間たちも健在で、特にコーイチは株を上げました。
青虫を助ける優しさやクライマックスで身を挺しパグ男を助ける男気にじーんとした……「春菜はコーイチが大好きだ。」の一文には「私も!!!!」と力強く同意してしまいました。
コーイチと春菜と仙龍が三角関係になる展開はありえなさそうですが、コーイチにはどうか変わらずそのまま、春菜と仙龍の良き弟分枠でいてほしいです。
怪現象自体は結構陰惨でグロいのですが、教授・和尚・コーイチが揃い踏みするとコミカルな雰囲気で中和されスイスイ読めます。
「生き延びたい家が人を呼ぶ」って発想も面白かった。
このシリーズを読むまで曳き家の仕事を知らず、建築方面にも疎かったのですが、「建物の因縁を、多くの人の訪れによって浄化する」というのが素敵でした。
過去に起きてしまった惨劇は変えられなくても、今を生きる人々の祈りや信仰の書き換えで建物が息を吹き返す。
その一端に携わる仕事に誇りを持つ仙龍や春菜を見てると、建物の延命と共に嘗てそこに生きた人の縁も繋げたくなる。
職業小説としても含蓄深いです。
因縁物件の根幹をなすエピソードはどれもありきたりというか、どこかで聞いた話で拍子抜けなことも多いのですが、今回はしっかり読み応えがありました!
プロローグのリンチ事件からスリリングでのめりこんだし、悪魔が関与する怪現象の数々と、神父一家を襲った惨劇の謎が絡んでリーダビリティの高いホラーに仕上がってました。
難点をあげるなら、表紙の写真の女性でしょうか。
妻にしては若いし、娘にしては大きいし……アンナのイメージならせめて子供を使ってほしかった。
最後に春菜に見えた仙龍の鎖ですが……コレ、増減の法則性がわからない……
単純にデカいヤマを片付けたから鎖が一気に消えるってわけでもないし、「次は増えるの減るの!?」ってハラハラドキドキしますが、なんだかゲームっぽくも感じてきました……
寿命を縛られてる仙龍や、彼の身を案じてる春菜にしたら不謹慎な話ですが、なにかしら法則性が見えてこないと手の打ちようがないし、そろそろ二人の恋愛の進展と共に余命への実際的な対処がほしいです。
好きなシリーズだけど、だからこそ引き延ばされてグダグダは嫌だなあ……。











