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マスカレード・イブは、本格ミステリーというより、まだ完成していない新田と尚美の「素の部分」を覗き見しているような一冊だと感じました。コルテシアの世界に戻ってきたはずなのに、どこかぎこちなくて、そこが逆に愛おしかったです。
特に、山岸尚美がまだ仕事に不安を抱えながら、目の前の客と自分の矜持のあいだでもがいている姿には、前作の頼もしさとは違う生々しさがありました。新田も今ほど完成された刑事ではなく、若さゆえの尖りや視野の狭さがちらついて、それが妙に人間くさかったです。
四つの短編それぞれに仮面のモチーフが通底していて、「誰だって日常の中で小さな仮面をかぶっているんだよな」と少し身につまされました。事件のトリックよりも、仮面を外すか外さないかの一瞬の揺らぎに、作者の視線が向いている感じがします。


















