ピカレスクの語源は悪漢小説。
この小説の主人公、自由奔放に生きる地主の息子ヴァシリも見事な悪漢です。
とにかく密度が濃いです。時代設定も二十世紀初頭ロシアという知る人ぞ知る非常にマニアックな選択。
裕福な地主の次男として生を受けたヴァシリは、成り上がりの父を継ぐことを夢見て農業を学ぶも生来女好きな放蕩癖あり、下宿先の叔父の家の女中や故郷の娘とたびたび関係を持っていた。
しかしそんなヴァシリの運命はロシアに迫り来る戦火に煽られ風雲急を告げる。
強盗・強姦なんでもあり。
人倫を踏み外す行為全般に一切ためらいない主人公の破滅的生き様は凄い。
殺人や悪事に手を染めても一切心を痛めず自分を貫き生きるさまはいっそ清清しい。
良心の所在が人間を定義する必須条件ならヴァシリの生き様はけだものさながら自由で獰猛で野蛮。
常識に束縛されず倫理に唾し欲望に正直に生きるヴァシリはやがて脱走兵のイタリア人少年・ウルリヒと出会い意気投合する。
このウルリヒがすっごいいいキャラしてるんですよ!
ニヒルでいながらユーモアセンスに冴えて、飢えと寒さに苛まれたみじめな逆境でも軽口を忘れない。これにフェディコというびびりの少年をくわえ、やがて三人で盗んだ馬車を駆り、略奪と殺戮とどんちゃん騒ぎをくりひろげつつロシアを縦横無尽に奔走する帰るあてなき旅が始まる。
そんなヴァシリたちのやりたい放題の暴走ぶりを「おいおいそのうち因果応報天罰がくだるぞ…」と眉をひそめ読んでいくと案の定後半で…ラストは言わぬが華ですがああ無情なかんじです。天罰というか人誅のほうでしたが。ヴァシリは自業自得だけどなあ…ウルリヒ…。
文章の密度もかなり濃い。
主人公が初めて人を射殺するシーンは比喩の秀逸さに感動しました。
嗚呼美しい、官能的…ため息。
佐藤賢一さんの「傭兵ピエール」や森博嗣さんの「スカイクロラ」なんかが好きな方にもおすすめです。












