「誰にも届かない声なんて、本当にあるのかな?」
この問いかけから始まる物語は、私の心の奥深くに静かに、けれど確かに響いた。
主人公の貴瑚は、過去の傷を抱え、逃げるように海辺の町へとやってくる。そこで出会ったのが、言葉を発せず「ムシ」と呼ばれていた少年・ミチル。彼もまた、深い孤独の中にいた。二人の出会いは、まるで“52ヘルツのクジラ”同士が偶然にも出会い、互いの声を聞き取ったようだった。
この作品の魅力は、**「孤独」と「つながり」**を真正面から描いているところにある。
貴瑚もミチルも、誰かに理解されたい、愛されたいと願いながらも、その声が届かない現実に苦しんでいた。けれど、ほんの少しの勇気と優しさが、彼らの世界を変えていく。その過程が丁寧に描かれていて、読んでいる私自身も、心のどこかが少しずつ癒されていくようだった。
特に印象に残ったのは、「声をあげることをあきらめないで」というメッセージ。
たとえ誰にも届かないと思っても、声をあげること自体に意味がある。誰かが、いつか、きっと気づいてくれる。そんな希望が、この物語には込められている。
読後、私は「自分の周りにも、52ヘルツの声で鳴いている人がいるかもしれない」と思った。そして、そうした声に気づける人間でありたいと。