特に印象的だったのは、本作がただ「ファン文化批判」をするのではなく、「物語を信じる/信じたい」という人間の根源の欲求を正面から見据えている点です。作中に “神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ” という言葉が出てくるように、人々を動かすのは教義でも宗教でもなく、共感と熱量によって生まれる“物語”そのものだ、という冷徹な分析が胸に刺さりました。
どこにも逃げ道がない。そんなに全ての視点で物語を書かれたら、どこにも逃げる場所がなくなってしまう。
就活、転職、婚活、物件選び…そのすべての条件やデメリットを並べて、埒が明かなくなるあのときの感覚だった。
自分のピンをどこにさせばいいかわからない。ここだと思ってピンを刺してページを捲ったときには、その土台は水だったとわかるような絶望感。
個人的には、今年一番の"物語"だった。
あと、国見が良い。大変良い。大好き。一番自分に近いからかもしれない。唯一、自分で選んで立っていたように思う。
推し活を仕掛ける運営側の久保田、推し活に熱中するファン澄香、そして愛する推しがいなくなり陰謀論に嵌る隅川。三者それぞれの視点から、現代の「推し活」の構造を描いた作品です。
この物語が示す視野が広いと自分を持て余し、視野を狭くすることで満足を得るという構図には、確かに!と思わず納得させられました。賢すぎて色々なものが見えてしまう人は、考えすぎることでかえって幸せそうに見えません。一方で、他人からどう思われるか関係なく、ただ自分の欲求に素直でいられる人は、純粋に楽しそうに見えます。
運営側の「我に返らせてはいけない」「自分を使い切らせることで幸せにさせる」という、ファンへの冷たい目線が非常に怖かったです。ブームは作られているのだろうけれど、その裏側にある目線は、実際にはもっと温かいものであってほしいと願います。
現代の熱狂の裏側にある本質を鋭く抉り出す、非常に読み応えのある一冊でした。




















