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死に場所を求めて都会から逃げてきた主人公が、何もない山奥の民宿で過ごす中で、少しずつ「生きる」感覚を取り戻していく物語です。最初は無気力で、すべてを諦めたようだった彼女が、民宿の主人との無言のやりとりや、自然の風景、ささやかな日常の中にある温かさに触れて、心の奥の凍った部分がゆっくり溶けていく様子がとても丁寧に描かれていて、読んでいるこちらの心も穏やかになります。
特に、民宿の主人の存在が印象的でした。多くを語らず、ただ黙々と日々を生きるその姿が、言葉以上の何かを伝えてきます。派手さはなくても、静かであたたかく、人生に疲れたときにそっと寄り添ってくれるような一冊でした。「死にたい」という気持ちに正面から向き合いながらも、それを否定せず、無理に前向きにさせることもなく、ただ「生きてみよう」と思わせてくれる。その優しさが、心に深く残ります。