朝日が昇り辺りを照らす柔らかな光景と、互いを見つめ合う若い男女が印象的で手に取っていました。
ケータイ小説サイトの「野イチゴ大賞受賞」を受賞した作品です。
期待に胸を膨らませながらページをめくると、モヤモヤした日常に押しつぶされそうな女子高生の日々に飲み込まれそうになりました。
主人公は少し複雑な家庭事情を持ち、学校では優等生を演じる女子高生・丹羽茜。
彼女は自分の想いを飲み込んでいるからか、学校ではマスクで顔を隠し、笑顔の仮面を被って“本当の自分”をさらけ出すことはありません。
「自分さえ我慢すれば――」「良い子のふりをしなきゃ――」
この茜のように、心の内に不平不満があっても、
表面上うまくいくなら自分の意見なんて押し殺した方が良いと考える人は少なからずいるのではないでしょうか。
そんな風に波風立てず穏便に物事を解決しようとする彼女ですが、
自分の思ったことをズバッと貫く同級生・深川青磁にいつも輪を乱されてしまいます。
相容れずに忌み嫌い合う2人……
文化祭の日、茜は偶然青磁の絵と出会います。
その絵を通して、彼が見ている世界と自分が見ている世界が全然違うことに気づいた茜は、青磁に素直な気持ちをぶつけます。
そして同じ瞬間(とき)を過ごす中で青磁の自由で真っ直ぐな考えに触れ、徐々に茜の世界は色を取り戻していき――
日々の暮らしにいつもある美しさを再び認識していく様子が眩いほど鮮やかに描かれていて、心に響きました。
そして、感動する数々の心動かす言葉に含まれた想い。
高校生という限りある時間だからこそ生まれた台詞には温かい心がこもっていて、
一瞬の曇りもない澄んだ気持ちが心に突き刺さるようで、いつの間にかカギをかけてしまっていた素直さを取り戻してくれます。
今甘くも酸っぱい青春を謳歌している人にも、青春する年齢ではないけどもう一度青春を駆け抜けたい人にも、読んでもらいたい作品です。
純粋な心地よさに包まれる感覚は、この作品を最後まで読んだ人しか味わえませんよ。