ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』は、ただのファンタジーではありません。それは“物語”そのものが持つ力と、読者自身の変容を描いた、鏡のような作品です。現実世界で孤独を抱える少年バスチアンが、物語の世界「ファンタージエン」に入り込み、欲望と喪失、そして愛と赦しを通して“自分自身”を見つけていく旅は、読む者の心を深く揺さぶります。最初は臆病で劣等感に満ちた少年が、物語の力によって“最も偉大な者”になろうとする。しかしその過程で、彼は大切なものを失っていく。記憶、仲間、そして自分自身。けれど、最後に彼が求めたのは「あるがままの自分を愛してほしい」という願い。この願いこそが、物語の核心であり、私たちが人生で何度も問い直すテーマです。バスチアンの暴走を止めようとするアトレーユは、まるで読者の良心のような存在。彼は傷つきながらも、最後までバスチアンを友と呼び続けます。その姿は、物語が読者を裏切らないことの象徴であり、物語が私たちを導く“光”であることを示しています『はてしない物語』は、物語の中に物語があり、読者が物語に入り込み、物語が読者を変えていくという構造を持っています。これは、物語を創る人にとって、非常に刺激的な構造です。物語はただの娯楽ではなく、人生を変える“入口”なのだと、コリアンダー老人は語ります。最終的にバスチアンが得たのは、力でも知識でもなく、“愛”と“変化する勇気”でした。「何もかも失わなくちゃいけないのかしら?」という問いに、「何一つ失われはしないのよ。みんな、変わるの」と答える場面は、まるで人生の真理を語っているようですこの作品は、読むたびに違う顔を見せてくれます。