2022年7月奈良県で元総理が凶弾に倒れた。こんな出だしでストーリーが始まる。どうしても現実に起こったあの事件と重ねてしまう。でも、この小説はフィクションだという。
41歳の男性が現行犯逮捕された。ある宗教団体への恨みがあり、関わりのある元総理へ恨みの矛先が向かったという。ここまでは、現実の世界でも、小説の世界でも同じだ。ただ、その先の展開は、この作品では思いもよらない世界が描かれている。
新聞社襲撃事件、宗教団体、右翼、警察、防衛省、銃、スナイパー、政権与党、公安、ジャーナリスト、奈良、皇室、元号、さまざまな要素が絡み合って、事件の裏側を探っていく。普段の生活では考えの及ばない世界が繰り広げられる。最大の問題作と言って良いだろうね。
この小説の特長は、フィクションでありながら、現実との世界を行き来する錯覚に陥られることだ。時系列や登場人物に実際の事象があり、これはノンフィクションなのかと思ってしまう。それに、描写が緻密になっていて、ドラマや映画の映像世界を見ているような気分になる。とても読みやすくて一気に読めた。
柴田哲孝の作品を読んだのは今回が初めて。取材で裏付けられた事象を、見事な程に素晴らしい小説に昇華させている。読み応え十分だった。他の作品もぜひ読んでみたいと思う。
「フィクション」という枠を超えて、現実と虚構の境界があいまいになり、これまで抱いていた“常識”や“事件の公式見解”さえ疑いたくなるような衝撃が残りました。物語の構成や調査の積み重ねが丁寧で、その緻密さゆえに「虚構なのにリアル」と感じる読者が多いようです。 
この作品は「読後に“事件の裏側”について深く考えさせられる」「ただの娯楽では終わらず、不安と疑問を残す」そういう意味で、とても強烈で重みのある一冊だと思います。















