『グラスホッパー』『マリアビートル』『AX アックス』に続く、殺し屋シリーズ待望の最新作。殺し屋シリーズなんて言うと、普通は非情で怖いイメージになるが、この小説はそうではない。ハードボイルドであり、エンターテインメントであり、そしてシュールな作風になっている。エンタメ・ハードボイルドという言い方がしっくりくるね。
ストーリーは、天道虫と呼ばれるとびきり不運な殺し屋が主軸となって進んでいく。ホテルの一室にプレゼントを届けるという簡単な仕事を請け負ったが、そう簡単に進まないのがこの天道虫の特徴。予想もできないおもしろい展開が、まさに伊坂幸太郎の世界。
登場人物がとてもユニーク。不運すぎる天道虫を筆頭に、どんなことでも記憶が残っている追われている女性、見た目重視の業者、両肩を脱臼させる業者、などなど。他の小説ではあまり登場しない個性豊かな面々が描かれている。
印象的なセリフがある。「幸運をつかむのは大変。ただ、失うのは簡単。恩知らずになればいい。人から受けた恩を忘れちゃうような人間は、運から見放されるらしい」伊坂幸太郎の小説には、いつもドキッとするセリフが散りばめられているから良い。
読み終えて、殺し屋が出てきたなんて忘れらるくらい、気持ち良い終わり方になっている。不運と言われつつ生き残った天道虫。となると、次回の登場、次回作を楽しみに待っていたい。