読みながらずっと、作者からじわじわと挑まれている感じがしました。犯人当ての仕掛けが前面に出ているのに、単なるゲームというより、自分の中の正義感や思い込みまで試されているようで、少し落ち着かない読書体験でした。
妹を殺された兄の執念があまりに生々しくて、応援したい気持ちと、どこかでブレーキをかけてほしい気持ちが同時に湧いてきます。そこに、加賀恭一郎の静かな冷静さが割り込んでくることで、この物語は単なる犯人探しではなく、「復讐と理性の綱引き」みたいな色合いを帯びていくように感じました。
そして何よりも印象的だったのは、最後まではっきりと名前が示されないまま終わる犯人像です。読み終えて本を閉じても、答え合わせをさせてもらえないもどかしさと、自分なりの結論を引き受けなければならない重さが残りました。


















