ありがとう
0
読み進めるほどに不思議な緊張感が高まる、短くも深い物語だった。山奥で道に迷った二人の紳士が、偶然見つけたレストラン「山猫軒」に入るところから始まるこの話は、最初はユーモラスで軽快な印象を与える。しかし、次々と現れる「注文」の札が、次第に不穏な空気を漂わせていく。
「帽子を脱ぐ」「クリームを塗る」などの指示に従ううちに、読者は彼らが“料理される側”であることに気づき始める。この構造の逆転は、読み手に強烈なインパクトを与えると同時に、人間の傲慢さや自然に対する無自覚な支配欲を浮き彫りにする。
特に印象的だったのは、二人の紳士が「自分たちは特別な存在だ」と信じて疑わなかったことだ。高価な服装や銃を持ち、自然を征服する側だと思い込んでいた彼らが、最終的には命の危機にさらされる。この展開は、現代社会における人間と自然の関係にも通じる警鐘のように感じられた。
また、物語の最後に登場する犬の存在が、救いとともに“本来のつながり”を象徴しているようで心に残った。人間が自然とどう向き合うべきか――その問いを、賢治は静かに、しかし鋭く投げかけている。
短編ながら、読むたびに新たな気づきを与えてくれる作品。子ども向けの童話としてだけでなく、大人こそ読み返す価値のある一冊だと感じた。

















