夜空を走る銀河鉄道の旅は、幻想的でありながら、どこか切なく、そして深く人間の本質に触れてくる。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』は、単なる童話ではない。死と生、孤独と愛、そして“ほんとうの幸い”とは何かを問いかける、静かな哲学書のような作品だった。
主人公ジョバンニは、孤独と貧しさの中で生きる少年。彼が親友カムパネルラとともに銀河鉄道に乗り込むことで、物語は幻想の世界へと展開していく。旅の途中で出会う人々や風景は、どれも寓話的でありながら、現実の苦しみや希望を象徴しているように感じられた。
特に心に残ったのは、「ほんとうの幸いとは、自分を犠牲にしても他者のために尽くすことだ」というテーマ。これは、現代の価値観とは一線を画す考え方かもしれない。しかし、ジョバンニがその意味を少しずつ理解していく過程は、読者自身の心にも静かに問いを投げかけてくる。
また、カムパネルラの存在が、物語全体に深い余韻を与えている。彼の沈黙と微笑みは、言葉以上に多くを語っているようで、読後には「彼は何を思っていたのか」「ジョバンニに何を託したのか」と考えずにはいられなかった。
『銀河鉄道の夜』は、読むたびに違う風景が見える作品だ。子どもの頃に読んだときと、大人になってから読むときでは、まったく異なる感情が湧き上がる。それは、私たち自身が旅の途中にいるからなのだろう。
この物語は、人生という旅の中で、何を大切にすべきかを静かに教えてくれる。夜空を走る銀河鉄道の光は、今も私の心の奥で、静かに輝いている。

















