第24回日本ホラー小説大賞受賞作。
もともと遠野物語に登場する迷い家の伝承に興味があり、今市子の「百鬼夜行抄」やその他フィクションで引用されるうちに好奇心が湧いたので購入。
帯で錚々たる顔ぶれが絶賛しているが、特に宮部みゆきと漫画家の漆原友紀(「蟲師」の作者)が褒めているのは納得。そりゃこの二人なら気に入る。綾辻氏と貴志氏もわかる。
学童疎開で田舎にやってきた軍国少年の心造が、行方不明になった妹をさがして迷い家に至る和風ホラー。
田舎の悪ガキと疎開児童の対立があったり、心造や香苗が東京大空襲のトラウマを背負ってたり、当時の世相と迷い家の不気味な存在感を絡めた展開が見事。
文章も達者で饒舌、心理描写も上手くグイグイ読ませる。良い意味の玄人っぽさ。
中でも心造が屋敷で出会う霊宝の目録にはわくわくさせられる。
迷家に保管された妖ゆかりの道具の由来が数行しるされているのだが、この怪異憚が本当に面白く、ここだけ摘まみ読みしても高揚をおさえきれない。
次はどんな奇想天外な無双アイテムが出てくるのか……心造の相棒となる犬もとい狼の妖、しっぺい太郎も非常にいい味をだしてる。
高慢で狡猾で低俗で誇り高い、「ぐふふ」と笑い自分の知名度の低さに本気で落ち込む彼のキュートさと邪悪さにはときめくこと必至。
第二章は時代が飛んで視点人物も変わるが、迷い家に滞在している間に心造に起きた変化、彼が侵された憎悪と絶望に起因する狂気にぞくりとする。
霊宝を組み合わせて威力を倍にする、または欠点を補うという発想も秀逸で、機転を利かせ窮地を切り抜けてく姿は痛快。それがのちに大参事に繋がるとは……永久に時が止まった隠世と終戦を迎えた現世の隔絶の残酷さが感慨深い。
クライマックスのスペクタクルは、荒俣宏の「帝都物語」を彷彿とさせた。
ラストは少しわかりにくいがあまり書き込みすぎても興ざめなので、余韻が残る終わり方ととれるだろうか。
全く話は替わるが、学帽学ラン短パンの規律正しい軍国少年スタイルで日本刀や短刀を振り回す心造のビジュアルはマニアックな向きにはたまらない。
シリーズ化するかこれのみで完結かはわからないが、もし続編があるなら迷い家にやってきた様々な境遇や価値観の迷い人たちと、彼が交流する話になるのだろうか。
その趣向も楽しそうなので実現したら読んでみたい。


















