恐怖という感情がどのように生まれ、どんな仕組みで私たちに作用するのか、医学的・心理学的な解説を期待して本書を手に取りました。
しかし実際には、著者ご自身の体験談や臨床の所見、引用文献が中心で、エッセイ色が強め。文章は非常に読みやすく、構成も巧みなので読み物としては面白いです。ただ、「恐怖のメカニズム」に踏み込んだ専門的な説明は少なく、求めていた方向性とは違いました。
また、恐怖症の紹介に多くのページが割かれ、苦手な虫に関する描写が強烈で、個人的には読んでいて辛い場面も……(笑)
ご本人も恐怖症をお持ちなのに苦手な事をよく書かれたな、と変なところで感心しました。
総じて、恐怖に関する興味深いエピソードを楽しみたい方にはオススメできますが、学術的な理解を深めたい人には少し物足りないかもしれません。
『恐怖の正体 トラウマ・恐怖症からホラーまで』(春日武彦/中公新書)は、心理学の視点から恐怖のメカニズムを解説した一冊です。トラウマや恐怖症、日常生活での不安、さらに映画や文学におけるホラー表現まで幅広く扱い、恐怖が人間の心にどのように作用するかを理論的かつ具体的に示しています。読者は、個人の心理的恐怖の理解だけでなく、ホラー作品に描かれる恐怖の構造や心理的効果についても学ぶことができる実践的で知的な内容です。















