キングのホラー小説はほぼすべてジェットコースターだ。
落ちる落ちる落ちるぞ……ほら落ちたー!!と、緩急は絶妙にして盛り上げるだけ盛り上げてどん底に突き落とす、よくできた遊園地のアトラクションのような構成。
それ故に、彼の作品で恐怖を感じたことはない。
一時期ハマって読み漁ったのだが、「IT」も「シャイニング」も「呪われた町」も、モダンホラーの傑作と絶賛される完成度の高さは認めるが、お話としてはよくできてる、エンターテイメントとしては大満足、と感心しながら、真実の恐怖を味わったことはいまだない。
それよりはむしろ「刑務所のリタ・ヘイワース」や「11/22/63」のようなヒューマンドラマに重きをおいた作品のほうが長く余韻を残すし、同じホラーでも「ミザリー」のようなサイコパスを描いた作品の方が暴走する狂気に慄く。
本書もまたしかり。超自然的な力に翻弄される幸せな一家を主軸にした話で、不吉な雰囲気は序盤から漂っている。
手製の墓が並ぶペットセメタリ―や、その奥のインディアンの聖地の異教的な描写にはぞくぞくするし、スリルは十分ある。
しかし上巻では学生の事故死と猫の復活と豹変以外に特筆すべき変事はおこらず、冗長にも感じられる。
そのぶん幼い子供を抱えた一家の幸せな日常がたっぷり尺を割いて描かれている。エリーとゲージの成長、姉弟のじゃれあいは微笑ましく、ゲージと凧を揚げる終盤のシーンはじんわりする。
キングの作品にままあることだが、「○○が二週間後に死ぬとは誰も思わなかった」とか「○○の命はこのあと二か月しかもたなかった」など、まだ何も起きてない時点の地の文であっさりネタバレされるので、人によっては興ざめするかもしれない。
気になったのは主人公の飼い猫チャーチへの仕打ち。
死んで初めて愛してたことに気付いたと独白してるが、その割には「なに死んでくれてるんだ」と罵声をとばすし、自分の身勝手で甦らせたのちは殴る蹴る虐待するで、猫好きならずともペットを可愛がってる人にはキツい。
良くも悪くも今ほどペットが尊重されてない時代の価値観で書かれている。
ジャドに至ってはお前が元凶だろ!!!!!と全力でツッコミたい。名伏しがたい力に操られてたのはわかるけどさあ……
上巻は起承転結の起承だけで、下巻の転結から面白さが加速するが、個人的にはスッパリ潔く救いのないラストでもよかった。
というか、あのオチじゃ生き残った彼女が可哀想。
ルイスが破滅するのは自業自得だが、その眼中から零れ落ちた存在のその後の人生を想像すると切ない。
一番ぞっとしたのは超自然的な邪悪ななにかや不気味な墓地、食屍鬼よりもなにより、ジャドの愛妻・ノーマの真実だった。
なお「ペットセマタリー」のタイトルは、共同墓地に子どもがかけた看板の誤字をそのまま引用したもの。
この遊び心が憎い。
『ペット・セマタリー(上)』は、スティーヴン・キングによる恐怖小説で、平凡な郊外の町に潜む恐怖と喪失を描いた作品です。家族やペットを失った悲しみの中で、禁忌に手を出してしまう人間心理が丁寧に描かれ、超自然的な恐怖と心理的恐怖が絶妙に絡み合います。キング特有のリアリティある人物描写と、日常の中に潜む不気味さが、読者にじわりとした恐怖感を与えます。翻訳の深町眞理子によって原作の緊張感も忠実に再現されています。
















