優雅なディナーの場で、テーブルに飾られた一輪の黄色いアイリスが物語全体に不穏な影を落とす、静かなサスペンスが印象的な作品でした。
会話や視線、沈黙の中に潜む緊張感がじわじわと積み上がっていき、まるで自分もそのテーブルに座っているかのような臨場感があります。
登場人物は華やかな社交の世界に属しながら、それぞれの胸の内には秘密や疑念が渦巻いている。
その空気を鮮やかに象徴しているのが、上品なのにどこか不吉な “黄色いアイリス”。
見た目は美しいのに、花言葉のように「裏切り」や「疑念」を連想させ、物語に深い象徴性を与えています。
クリスティらしいのは、真相が暴かれた時に見える、
「そうだったのか」という知的な驚きだけでなく、
人間関係の微妙な距離や感情の複雑さも同時に浮かび上がるところ。
最後のページを閉じた後、
誰を信じるべきか、信頼とは何なのか
といったテーマが心に残る一作でした。
9話の話が収められた短編集です。
『ポリェンサ海岸の事件』『黄色いアイリス』『船上の怪事件』が私のお気に入りです。アガサクリスティは短編でも長編でもキレイに話がまとまっていてスッキリ読み終わるのが魅力だと思います。















