原田マハ『さいはての彼女(角川文庫)』は、人間関係や人生の選択を丁寧に描いた感動的な恋愛小説です。物語は、人生の岐路に立つ主人公と彼女との関係を軸に進み、愛や友情、別れや再生のテーマが繊細に描かれています。文章は温かみがあり、登場人物の心理や葛藤が丁寧に表現されているため、読者は自然と物語に引き込まれます。人生や愛の深さを考えさせられる、心に残る一冊です。
原田マハ『さいはての彼女』は、人生の岐路に立つ女性たちが、旅を通して自分自身を見つめ直し、再び歩き出す姿を描いた短編集だ。舞台は北海道や伊豆など、どこか“さいはて”を思わせる土地。そこに流れる空気や風景が、登場人物たちの心の揺らぎと静かに呼応している。
中でも印象的だったのは、第一話「さいはての彼女」。仕事に追われ、心を失いかけていた女性経営者・涼香が、偶然の旅先で出会った少女・凪とその愛車「さいはて」によって、少しずつ自分を取り戻していく姿が描かれる。凪の存在は、まるで読者自身の中にある“もう一人の自分”のようであり、彼女の静かな強さが胸に残った。
本書の魅力は、登場人物たちの再生の物語が、決して大げさではなく、日常の延長線上に描かれていることだ。だからこそ、読者は自分の人生と重ね合わせながら、そっと背中を押されるような感覚を味わえる。
忙しさに追われ、自分の声を見失いそうになったとき――この本は、静かに「あなたはどう生きたいのか」と問いかけてくる。旅に出ることが難しくても、心の中で“さいはて”を訪れることはできる。そんな希望を与えてくれる一冊だった。

















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