直木賞候補作にもなった『夜市』と、書き下ろしの『風の古道』という二つの中編を収録した作品です。
レーベルは角川ホラー文庫ですが、いわゆるホラー小説のような恐怖があるわけではないと聞いたので、
ホラー苦手な私でも読めそうだと思い手にしてみました。
『夜市』の舞台は、なんでも売っている不思議な市場「夜市」。
大学生のいずみは、高校の同級生である裕司に誘われて、そこに足を踏み入れることに。
夜市にいる存在も、夜市で売られているものも、普通の世界にいれば目にすることのないものばかり。
その内に二人は道に迷ってしまうのですが、幼い頃にも夜市を訪れたことのある裕司にはある目的があったのです…。
『風の古道』の主人公は男子小学生の私。
7歳の時に不思議な道を通った経験を親友のカズキに話したことから、二人でその「古道」に入ってみることに。
ただ、入ったはいいものの出口がわからない。
そんな時に永久放浪者のレンという青年に出会い、出口まで一緒に向かうことになったのです…。
どちらの作品も異界に足を踏み入れてしまうわけですが、この異界が全くの異世界という感じではなく、
日常の延長線上にふと自然に現れている、不気味ではあってもどこか懐かしい、そういう雰囲気を漂わせているところがいいなと思いました。
また寂しさや切なさを感じる結末ながらも、好きな物語だったなあと思える余韻がありました。
ホラーというより、少し怖いファンタジーという方が説明としてはしっくり来るかもしれません。
恐ろしいからこそ魅力的な異界を、この作品で少し覗いてみませんか?