『博士の愛した数式』の著者として知られる、小川洋子さんの短編集です。
収録されている短編は、掌編を含めて7つ。
文章は綺麗で丁寧、物語は静謐で澄んでいて、だけどどこかに毒が混じっているかもしれないーーそんな不思議な雰囲気が全体に漂っています。
そして現実的な世界を描きながらも、空想的な設定が盛り込まれているのも魅力と言えるでしょう。
巻末のインタビューページでは、小川さんの作品は「暖色一辺倒ではない」と評されていました。
穏やかに見えていても、ひんやりとした空気がある。
『海』は1話目の短編のタイトルから取られたものですが、作品全体を表す語としてもピッタリだと感じました。
私が特に気に入っているのは、7話目の『ガイド』という物語です。
主人公は、ママが観光ガイドをやっている少年。
事情があってママがガイドをするツアーに潜り込んでいる時に、一人で旅をしていた老人と知り合い、行動を共にすることとなります。
老人と少年の心温まる触れ合い……ではあるのですが、少し不穏な表現も挟まれていたり。
また、老人のやっているお店が現実にはないだろうなというものなのですが、ここでは秘密にしておきましょう。
作品の最終話にふさわしいすっきりとした終わり方なので、
最後に読むのはこの物語がいいのではないかな、と思います。
皆さんも、お気に入りの物語を探してみてはいかがでしょうか?