主人公の達家尚成、三十代の男性、同性愛者。彼はこれまで共同体から拒否されてきた経験から、すべてを穏やかに受け流す術を身につけています。
どんな組織も拡大や発展、成長を目指している中、彼はそんなことには興味がなく、何も考えずにただその場をやり過ごすことに長けています。
この物語の語り手は、なんと彼の「生殖本能」。語り口はエッセイのようにくだけていて面白いのですが、内容は非常に深く、読み解くのが難しいと感じました。わかるような、わからないような、不思議な読後感が残ります。
尚成はかなり特殊な存在であることは確かですが、「しっくりくるかどうか」を常に考えて生きている人は、案外少ないのかもしれません。多くの人は、ただ流されるままに生きているのではないでしょうか。
多様な考え方や生き方がある中で、改めて自分自身の価値観について考えさせられる一冊です。
『生殖記』紹介
人間の「生」を支える本能に迫る――『生殖記』は、生物学や社会学、哲学の視点を交えながら、「生殖」というテーマに正面から向き合う一冊です。繁殖行動や家族観、性的役割に関する多様な視点を提供し、現代社会の価値観を問い直します。
個人の生き方や社会のあり方を考える上で、生殖が果たす役割の重要性が浮き彫りに。繊細でデリケートなテーマを扱いながらも、科学的なデータや歴史的な背景を交えた深い洞察が特徴です。命のつながりや人間の本質に興味がある人におすすめ。この本が、新たな視点で人生を見つめ直すきっかけになるでしょう。
















