「アイネクライネナハトムジーク」といえば、モーツァルトの楽曲名です。
音楽に関わる話なのかと考えていると、一話目の「アイネクライネ」が、音楽家の斉藤和義さんからオファーを受けて書かれたものだということでした。
「アイネクライネ」のテーマは "出会い"。
円満に暮らす友人夫妻や、妻に出て行かれた会社の先輩はどうやって出会ったのか。
そして主人公である僕自身の出会いはいつ訪れるのか……
この小説から歌詞を作り上げた斉藤和義さんの「ベリー ベリー ストロング~アイネクライネ~」という楽曲も合わせて聴いてみてはいかがでしょう。
私は読んだ後で聴きましたが、読む前に聴いてストーリーを想像するのも面白いかもしれませんね。
他に、主人公の異なる五話の短編が連作形式で収録されていて、その全てが恋愛にまつわるストーリーです。
先に紹介した会社の先輩のように、妻に出て行かれてしまうという悲しい展開もあります。
ですが全て読み終わった後には、心にぽっと明かりが灯るような、温かい気持ちになれるはず。
伊坂作品らしい軽妙な会話のテンポは読んでいて楽しいですし、
登場人物や起こった出来事などが次々にリンクしていき、最後に満開になるかのような展開には一種の爽快感すら覚えます。
伊坂作品といえば、殺し屋シリーズやギャングシリーズに魔王シリーズなどというラインナップからもわかる通り、
ミステリー的な要素が強く、恋愛とは遠い場所に位置するものも多くあります。
そういう意味で今作は少し珍しく、全編を通して優しい雰囲気が漂っているので、
伊坂作品に触れる第一歩としてもおすすめですよ。