【喜びが否応なく広がる。前にいけた。私が前に。後ろに人がいなければ列に価値はない。】
他者との比較や競争を『列』に見立て、人間の深層心理に切り込む哲学的な作品。なぜ、人は、後ろに人がいないと、誰かに羨ましがってもらわないと満足できないのだろうか。後ろにまだ人がいる安心感、誰かより前に進んでいることでしか得られない優越感。人はそんなもので己の自尊心を満たし、心の均衡を保っているのだろう。まるで後ろからそっと耳元で「あなたも周りとの比較と競争から一生逃れられないのよ」と囁かれたようなじっとりとした感触があった。